高額療養費と限度額適用認定証で未収金のリスクを低減しましょう

高額療養費と限度額適用認定証で未収金のリスクを低減しましょう

高額療養費や限度額適用認定証は患者さんの負担を減らすための制度です。それは引いては医療機関の未収金リスクの軽減にもつながります。

高額療養費と限度額適用認定証で未収金のリスクを低減しましょう

未収金の回収

医療事務の仕事の一つに未集金の督促、回収があります。

 

もちろん、すべての医療機関で未集金が発生しているわけでもありませんし、医療事務スタッフが必ず行うわけでもありません。

 

未払い者に対して、最終的には内容証明等にて督促を行ったり、金額が多ければ法的な手段をとるわけですが、その段階ではしかるべき機関や、弁護士や司法書士に依頼することになります。

 

ですが、初期の電話での督促などは医療事務スタッフが行うことがほとんどです。

 

「お金を払って欲しい。」という電話をするのはやはり気分の良いものではありませんよね。

 

少しでもそういったケースを減らすために、高額療養費と限度額適用認定証について理解を深めておきましょう。

 

少し古い資料になりますが、平成17年の厚生労働省の調査では調査対象3270病院における累積未収金額は1年間で219億円にものぼるそうです。

 

特に、産科や、入院施設、緊急対応のある医療機関で未収金が多く発生しています。

医療機関の未収金問題に関する検討会報告書(厚生労働省HP)

高額療養費制度について

医療保険には「高額療養費制度」と言うものがあります。
高額療養費制度とは、患者さん一人につき一ヶ月間に、一つの医療機関(外来・入院別)で支払った自己負担額が一定額を超えた場合に、その超えた金額を還付する制度です。

 

一定額は70歳未満の場合、次の表のとおりとなります。

所得区分

ひと月あたりの自己負担限度額

年収約1,160万円~の方
健保:標準報酬月額83万円以上の方
国保:年間所得901万円超の方

252,600円+(医療費-842,000円)×1%

年収約770~1,160万円の方
健保:標準報酬月額53万円以上83万円未満の方
国保:年間所得600万円超901万円以下の方

167,400円+(医療費-558,000円)×1%

年収約370~770万円の方
健保:標準報酬月額28万円以上53万円未満の方
国保:年間所得210万円超600万円以下の方

80,100円+(医療費-267,000円)×1%

~年収約370万円の方
健保:標準報酬月額28万円未満の方
国保:年間所得210万円以下の方

57,600円
住民税非課税の方 35,400円

 

例えば年収約370~770万円の場合、
自己負担限度額は【80,100円+(医療費-267,000)×1%】です。

 

つまり、医療機関での支払額が267,000円以下の場合は、支払額もしくは80,100円のどちらか小さい金額、267,000円より超える場合は、267,000円を超えた金額の1%と80,100円の合計額が患者さんの支払額となります。

 

(医療保険によっては、支払額が上の自己負担限度額まで達せずとも、例えば月20,000円を超える支払い部分を独自給付にて全額還付しているようなところもあります。)

 

また、異なる医療機関で支払った医療費が有る場合や、家族(おなじ医療保険加入の場合に限る)にかかる医療費が有る場合、また、過去1年間に3回以上高額療養費の支給を受けた月が有る場合などは、さらに自己負担額が軽減されることとなっています。

 

なお、高額療養費制度はあくまで還付であるため、一度は自己負担分を患者さんが全額支払う必要があり、その後(約2、3ヵ月後)に、還付されることとなります。

 

高額療養費を受けるためには、患者さん自身で加入する医療保険へ支給申請書の提出が必要となります。
*一部の健康保険組合や共済組合では、患者さん(被保険者)が何もせずとも自動払いされます。

限度額適用認定証について

「限度額適用認定証」もしくは「限度額適用認定・標準負担額減額認定証」というものがあります。

 

これを保険証と一緒に提出することで、1ヶ月に患者さんが実際に支払う医療費を高額療養費制度の自己負担限度額(医療保険の独自給付部分除く)までに抑えることが出来ます。

 

つまり、一旦支払って後から還付される金額が、医療費の7割部分と同じ現物給付扱いとなるのです。

 

この認定証は、患者さんが加入している医療保険に申請すればすぐに発行されるものです。

 

ですから、入院や手術など医療費が高額になることが予め分かっている場合には、会計をする日までに、患者さんに申請して取得しておいてもらいましょう。

未収金を減らすために

未収金を減らすためには、患者さんの負担を減らしてあげることです。

 

それは、未収金の減少だけでなく、患者さんにとっても嬉しいことです。

 

そのために、医療費が高額になったときには、患者さんに一定額以上は還付されることを説明してあげましょう。

 

患者さんが加入する医療保険のホームページで、高額療養費の還付を受けるために申請が必要かどうかを確認してあげても良いでしょう。

 

自動払いであれば「3ヵ月後には還付されますよ。」と伝えれば良いですし、申請が必要であれば、加入する医療保険のホームページ等で用紙を入手し申請書を提出するよう説明してあげましょう。

 

また、入院や手術の際には「限度額適用認定証(限度額適用認定・標準負担額減額認定証)」を先に取得しておいてもらうことで、患者さんが実際に支払う金額を抑えられます。

 

例えば患者さんの支払が30万円必要なところ、約8万円で済むのであれば病院にとっても未払いのリスクをかなり軽減できます。

 

もちろん患者さんが30万円支払えば、3ヵ月後に約22万円還付されるのですが、一時的な支払が厳しい患者さんもいらっしゃいます。

 

「限度額適用認定証(限度額適用認定・標準負担額減額認定証)」を確実に利用してもらうようにしましょう。

 

そしてもう1点、これは患者さんの症状や病院側の都合にもよりますが、医療費の支払が遅れがちな患者さんなどに入院を含む治療等を行う場合は、月初から入院してもらうのも一つの手段ではあります。

 

高額療養費の限度額計算は、月初から月末の1ヶ月が計算期間ですので、診療行為をできるだけ同月内におさめることによって、患者さんの負担が減り、引いては病院の未収金リスクの軽減につながることになります。